33とこれから

美術作家
石場 文子
いしば あやこ
2016年、愛知県立芸術大学美術研究科博士前期課程修了。2024年「2,3,4(and 1 / or 1)」(堀川新文化ビルヂング)、2019年「あいちトリエンナーレ2019」(愛知県美術館)にて展示。2022年、名古屋市文化振興事業団第38回芸術創造賞を受賞。
私は1991年生まれ、今年(2024年)で33歳になる。先日仕事の関係で、初めて三十三応現身像の話を伺った。「三十三応現身像を簡単に説明すると『観音菩薩が衆生を救済する際に33の姿に変えて現れる』というもので、そこから33年というのが一つの周期として考えられている。33年の間に観音様にどこかで会っているんですよ」と説明を受けた。三十三回忌もこの教えからきているらしい。たまたま自分の33歳の誕生日の翌日だったこともあり、その考えで言うと私はようやく一つの周期が終わるのかと、自分の年齢と時間についてしみじみ考えた。
歳を重ねることへの感じ取り方は世代によって大きく異なる。自分の両親たちの世代は20代で結婚出産を経験した人が今よりも多く、女性の年齢がクリスマスケーキに例えられていた話も知っている。私の世代はその世代に比べたら年齢を重ねることに対しての抵抗は少ない方だと思うが、それでも実際に20代が終わることに焦りを感じている友人も少なくなかったし、30歳で感じた開放感から自分の中にも20代と30代の壁を勝手に感じていたのかと、“20代の呪い”があったことを自覚もした。でも、実際30歳になると、とても生きやすくなった。年齢を聞かれて30歳と答えると、「若い」とかこれからのことを聞いてくる人が減ったし、自分自身が30年生きてきた実績があるおかげで、多少のことでは動揺しなくなった。良いか悪いか、自分のダメな部分も20代の時よりは受け入れやすくなった。
数年前、勤め先だった大学の卒業式で、女性の教授が卒業生たちに向けて「これから年齢を重ねると、どんどん楽しくなる。30代、40代、私はとても楽しかった。だから、みなさんもこれからどんどん歳を重ねて、自分の人生を歩んでほしい」と卒業生に贈った言葉が今も印象に残っている。私が美術を続けている理由の一つは、かっこいい人生の先輩たちにたくさん出会えたからだ。美術を続けていると、上記の教授や還暦を過ぎても活躍されている方、反対に一般社会では生きていけなさそうなダメ人間といわれる人など多くの人と出会えた。若い頃に無茶をしすぎてクレジットカードが作れないと教えてくれた教授や、美術館で大きな展示をしていた先輩が、お金がなく最近まで苦しんだという話を聞くと、私はまだまだこれからなんだ、大丈夫だと励ましてもらった。私自身、あまり大きな声では言えないけれど消費者金融にお世話になったこともあるし、ギャラリーに作品代を数十万円ぼったくられて逃げられた経験もある。私はしんどい時こそ人生の先輩たちの失敗談を思い出して踏ん張ってこられた。もし私より若い読者がいるなら、私の失敗や不幸話でよければいつでも聞いてほしい。みんな失敗して今があると思ったら少しは前を向けるかもしれない。それに、辛いことがあっても年齢を重ねていくことは楽しいと先輩方も言っているので大丈夫。まだまだこれからだ。私も来年の34歳からは、2周目として人生を楽しみながら歩んでいこうと思う。